AI agents in action: From uncertainty to safety in regulatory review
2026年4月21日
Maaly Nassar別

Meet RegBot, the agentic AI platform that can help drug safety officers with their critical work
規制科学の現場では、ごくわずかな情報の違いが、医薬品の将来を大きく左右することがあります。しかし、その重要な一片を見つけ出し、迅速に判断へとつなげるためには、時間と専門知識に加え、言語や規制当局をまたいで分散するエビデンスを的確に読み解く力が求められます。
こうした状況は、FDA、EMA、そして日本のPMDAといった規制当局で働く担当者にとって日常そのものです。そこでは、データの1ページ、1項目が、患者の人生を左右し得るほどの重み持っています。では、その実態とはどのようなものなのでしょうか。ここからは、医薬品の安全性評価の担当官の視点で、その現場を見ていきます。
A peek into the life of a Drug Safety Officer
2002年の夏。窓の外ではセミの鳴き声が響く中、新しい肺がん治療薬ゲフィチニブの市販後安全性報告書に目を通しています。承認からわずか4か月で、日本ではすでに間質性肺疾患(ILD)に関連する87件の死亡が自発報告として確認されていました。2003年1月までには、その数は183件に達します。必須市販後調査では、ILDの発現率は約5.8%、治療患者における死亡率は約2.3%と推定されました。 対応は迅速でした。医療従事者への緊急安全性情報opens in new tab/windowの発出、添付文書の警告強化、そして全例調査の義務化。腫瘍縮小効果は認められるものの、生存期間の明確な延長が示されなかったことから、「患者安全を最優先とする」という原則が改めて浮き彫りとなります。
2011年、再び新たな安全性シグナルへの対応が求められます。6月、梅雨の雨が降る東京。濡れた傘を入り口に置き、オフィスに入ると、最初に目に入ったのは「urgent」と件名に記された1通のメールでした。海外の規制当局から、ピオグリタゾンの長期使用が膀胱がんと関連する可能性があるとの警告です。直ちに有害事象データの確認に着手し、関係当局との横断的なレビューを開始します。数日以内に緊急安全性情報が発出されopens in new tab/window、添付文書には新たな禁忌およびモニタリング指針が追加されました。さらに、医療従事者には尿路症状への注意喚起が行われました。その後の研究でリスク増加が確認されなかった後も、この予防的措置は維持されました。
そして2026年。確認しているのは、糖尿病および肥満症治療薬としてFDA管轄下で承認された有効成分セマグルチドの市販後安全性情報です。報告される有害事象の多くは既知のものであり、添付文書にも記載されています。重度の消化器症状、胃内容排出遅延、膵炎、胆嚢疾患――いずれもGLP-1受容体作動薬としての薬理作用と整合するものです。しかし、問題はその“規模”でした。セマグルチドは今や、承認製剤の枠を超えて使用が拡大しており、FDAの審査を経ていない調剤製剤opens in new tab/windowに関する報告が増加しています。用量のばらつき、不適切な保管や取り扱いなどが、安全性評価を一層困難にします。有害事象報告が増加するなかで、既知の薬理学的リスクと、規制外使用に起因する不確実性との切り分けは、ますます難しくなっていきました。対応は明確でした。FDAは、調剤されたセマグルチド製品は安全性・有効性・品質の評価を受けていないことを警告し、規制措置へと踏み切ります。opens in new tab/window規制当局による監視のもと、未承認製品は市場から撤去されました。
20年以上にわたる規制業務のなかで、こうした局面では常に、注意深い監視、的確な判断、そして不確実性の中でも迅速に行動する覚悟が求められてきました。FDAやPMDAの担当者にとって、これは例外的な出来事ではなく、日常そのものです。データと意思決定、そして医療の安全性が交差する現場で、名も知られることのない多くの患者の命を支える仕事なのです。
A little help, please?
では、もし規制業務の担当者が、単に文書を検索するだけではなく、それらを横断的に理解し、推論できるAIアシスタントを利用できたとしたらどうでしょうか。規制上の文脈を理解し、多言語にまたがる情報を横断しながら、ライセンスや利用制約にも適切に対応し、さらにあらゆる結論を元のエビデンスへと追跡可能な形で結び付ける――そのようなAIアシスタントです。
それが、RegBotです。
Introducing RegBot: Agentic AI for regulatory science
RegBotは、単なる翻訳ツールでも汎用的なチャットボットでもありません。規制科学のために特化して設計された、多言語対応のエージェント型AIプラットフォームです。そこでは、エビデンスの追跡可能性、意思決定の正当性、そしてライセンスや規制範囲に準拠したデータ利用が不可欠となります。
RegBotは、複数の規制当局が公開する規制文書を横断的に推論し、組織の安全な環境内で利用されるライセンス取得済みのPMDAコンテンツと、公開されているFDA資料を統合して活用します。生成AIモデル、セマンティック検索、ドメインオントロジー、そして規制ナレッジグラフを組み合わせることで、文脈に応じた複雑な規制上の問いに対し、完全なエビデンスの来歴(プロベナンス)を保ちながら、AIエージェントによる高度な分析を可能にします。
RegBotは、生成AIモデル、ベクトル検索、セマンティック検索、ドメインオントロジーを基盤として、以下の機能を提供します。
多言語推論 — 日本語・英語をはじめとする複数の大規模言語モデル(LLM)を選択し、それぞれの言語で規制文書の検索・解釈を実行
プロベナンスの統合管理 — すべての回答を、元となる文書内の該当文・段落へリンク付けし、完全な監査可能性を確保
オントロジー駆動のフィルタリング — PMDA文書アノテーション向けに整備された日本語用語体系を含むキュレーション済み語彙を用いて、概念、メタデータ項目、関係性タイプに基づく回答の絞り込みを実現
規制当局横断の比較分析 — PMDAコンテンツに対する適切なライセンスを保有する組織環境において、PMDAとFDAの審査結果や見解を並列比較可能
ナレッジグラフ統合 — 構造化された規制データセット内のエンティティ、関係性、メタデータを探索
Back to the future: How RegBot could have changed the past
歴史には、多くの教訓が刻まれています。では、もし現在の技術を用いて、過去の課題により早く対応できていたとしたら、どうなっていたでしょうか。
PMDAおよびFDAにおける3つの重要な事例を振り返ることで、RegBotの多言語推論、オントロジー駆動のアノテーション、そして文書横断的なエビデンス連携が、規制対応をどのように加速し得たかが見えてきます。それは、専門家の判断を置き換えるものではありません。むしろ、根拠に基づいた結論を導くために必要な情報の収集・整理にかかる時間と労力を軽減し、より迅速な意思決定を支援するものです。
2002 – Gefitinib (ILD Risk)
SciBiteの英語・日本語の規制オントロジーを用いてPMDA審査資料をアノテーションすることで、RegBotは、ゲフィチニブに関連する国内のILD(間質性肺疾患)安全性シグナルを、組織内のライセンス管理されたPMDA環境下で早期に検出できた可能性があります。これらのオントロジーは、MedDRA(有害事象)やChEMBL(医薬品)といった公開標準オントロジーを基盤としつつ、医薬品規制文書の文脈に合わせて社内で翻訳・最適化されたものです。さらに、日本国内の症例頻度をグローバルな安全性データベースと比較することで、極めて高い発現率をより早期に把握し、迅速な安全対策につなげられた可能性があります(図1)。
Figure 1: Screenshot from RegBot showing results for Gefitinib, identifying potential serious adverse events and outlining PMDA-required post-marketing safety measures at approval.
2011 – Pioglitazone (Bladder Cancer Risk)
Figure 2: Screenshot from RegBot showing query and results for Pioglitazone, summarizing serious adverse events reported in patients and outlining likely FDA-required post-marketing safety measures, including monitoring for heart failure, bladder cancer, fractures, and other high-risk conditions.
RegBotの多言語検索機能により、FDAが発信する安全性関連情報を横断的に集約し、日本語と英語のマッピングを通じて有害事象の用語を統一的に整理することが可能になります。これにより、PMDAの審査担当者は、グローバルな知見と国内の有害事象データを即座に照合でき、ラベル改訂の迅速化につなげることができます。
このような過去の事例は、多言語に基づく知見が安全対策の迅速化に寄与し得ることを示しています。現在では、RegBotはこの機能を医薬品の承認直後から提供しています。
2026 – Semaglutide (Compounded formulations and unapproved use risk)
RegBotのエージェント型推論により、セマグルチドに関するFDAの規制審査、臨床試験データ、市販後安全性報告、さらには非臨床毒性データを横断的に統合し、既存のエビデンスにおいてすでに示されている用量依存性や致死的リスクを伴う可能性のある有害事象が浮かび上がります。
さらに、RegBotは、有害事象と曝露量、試験条件との関係性を結び付けることで、未承認の調剤製剤のように、製剤、用量、保管・取り扱い条件の逸脱が、既知のリスクをどのように増幅させるかを明確に示します。
このような統合的なビューにより、規制当局の担当者は、実臨床における使用が承認条件から逸脱し始めている兆候を早期に把握することが可能となります。その結果、添付文書の改訂、製造販売業者との適切な連携、過去の事例に基づく規制措置といった対応を、タイムリーに実施することができます。
現在、RegBotは、製剤や用量に関する安全性上の疑義が生じたその時点から、このような可視性を提供します。
Figure 3: RegBot view of dose-related adverse effects for Semaglutide, integrating clinical, post-marketing, and non-clinical evidence to surface safety risks linked to exposure and dosing context.
The RegBot pipeline
RegBotのアーキテクチャは、セマンティックアノテーション、ナレッジグラフ、エージェント型AIを統合することで、規制業務における説明可能かつ監査対応可能な推論を支援するよう設計されています。あらゆる結論は、ライセンス管理された原典エビデンスまで追跡可能な形で提示されます。
Figure 4: RegBot Agentic AI Architecture: Regulatory documents from agencies such as FDA, PMDA, EMA are annotated with English and Japanese regulatory ontologies using SciBite Search. The annotated data is vectorized (by Hugging Face, AWS vector models) and integrated into a knowledge graph. An LLM-powered agent (OpenAI + Neo4j) then performs vector search and reasoning, enabling a chatbot interface for complex regulatory queries.
データの取り込み – FDAの規制審査情報は直接取り込まれます。PMDAおよびその他の規制当局データについては、各組織が適切なライセンスを保有している場合に限り、その組織の安全な環境内で取り込まれます。
アノテーションと構造化 – SciBite Searchが日本語および英語の語彙体系を適用し、医薬品、標的、有害事象、評価項目などの情報を識別・構造化します。
ベクトル化とナレッジグラフ – アノテーション済みのテキストはセマンティック検索のためにベクトル化され、主要なエンティティやそれらの関係性はナレッジグラフとして格納され、文書横断的な推論を可能にします。
エージェント型AIによる推論 – RegBotのエージェントレイヤーは、LLMを用いて複数文書を横断的に取得・解析し、規制業務に即したステップごとのロジックを適用することで、複雑な問いに対する回答を導き出します。
多言語モデルの選択 – ユーザーは、用途に応じて複数の多言語生成モデルから選択可能です(例:日本語によるPMDA審査分析、FDAとPMDAの比較など)。
Figure 5: RegBot knowledge graph: AI-generated adverse relationship scores surface the most serious adverse events for Gefitinib (e.g., higher pulmonary toxicity in Japanese patients), by filtering high-confidence links (>0.8).
Collaboration with Tanabe Pharma
田辺ファーマ株式会社は、RegBotを自社の安全な社内サーバー環境へ導入しました。これにより、安全性研究部門のレギュラトリーサイエンスチームは、LLMが参照したデータの出典を完全に保持しながら、ライセンス要件を満たした形で機密性の高い情報を適切に管理しつつ、多言語にまたがる複雑な問いを探索できるようになりました。
「規制審査のプロセスにおいては、申請者は規制当局からの質問に対し、限られた時間内で明確かつエビデンスに基づいた論理で回答することが求められます。SciBiteのRegBotは、過去に承認された医薬品に関する膨大な規制審査文書の中から、関連する毒性学的な前例を網羅的に抽出することを可能にしました。RegBotは、SciBiteの科学オントロジーおよびSciBite Searchによるセマンティックアノテーションを通じて構築された、AI駆動のナレッジグラフを基盤としています。この基盤により、規制審査文書の内容を構造化かつ追跡可能な形で解析することが可能となりました。さらに、大規模言語モデルに基づくベクトル検索(RAG)によって過去の類似事例を特定できるだけでなく、RegBotのオントロジーに基づくフィルタリング機能により、強固な毒性学的ロジックを構築するために必要な情報を、高い精度で絞り込むことができました。このように十分に根拠づけられた知識を分析することで、臨床試験のエビデンスに裏打ちされた、高い説明可能性と信頼性を備えた規制文書の作成が可能になります。SciBiteのRegBotが、今後の創薬研究および規制審査プロセス全体を支える社内ナレッジマネジメント基盤として活用されることを期待しています。」
From historical challenges to modern solutions
これまでのPMDAの事例が示しているのは、急速に進展するエビデンス、多国間にまたがるデータ、そして言語の壁が、規制上の意思決定をいかに複雑化させるかという現実です。RegBotは規制当局の専門的判断を代替するものではなく、むしろ、その判断を支援し、強化するためののツールです。多言語検索、セマンティックアノテーション、エージェント型推論を統合することで、RegBotは情報の関連付けに要する時間と労力を軽減し、規制業務に携わる専門家が、より高い透明性と確信をもって意思決定を行えるよう支援します。
SciBiteについての詳細は、こちらをご覧ください。
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貢献者
Maaly Nassar
Senior Data Scientist
SciBite